【その2:シナリオ型チャットボット】Eコマースで利用されているチャットボット(Chatbot)とは

チャットボットは、万能ではない。

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いろいろなチャットボットを見ていく中で思ったことは、得意な分野はとても得意だが、苦手な分野に関しては言葉を覚えたての子どもと変わらない。
苦手な分野の代表例としては、テーマのない雑談。古くは人工無能に代表される。こちらが直前に入力した文章の単語に反応し、あたかもそれらしく対応をしてくれるが、文脈についてはほとんど意識されることがない。

人とのコミュニケーションだと文脈をくみ取り、円滑なコミュニケーションを取ることができるが、まだ文脈をくみ取れるチャットボットは限られている。現段階でチャットボットだけでカスタマーサポートを実施するのは、定型化された対応を除き、非常に厳しいだろう。
一方、チャットボットをうまく活用しているブランドもある。
その違いはどこだろう? 現在、チャットボットはどのようにEコマースや小売業に活用されているのだろうか? 今回、次回と実際の事例を見ながら、それらをひも解いていきたい。
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今回の記事で書かれていること

前回は利用者とチャットボットのインターフェースであるメッセンジャーアプリを紹介した。今回は、チャットボットを実現する裏側の仕組みでおおまかに分類して紹介していきたい。なお、この分類は一般的な決まりがあるわけではなく、筆者の方で行った。
今回はシナリオ型に分類されたチャットボットのEC活用事例を紹介する。
EC活用事例

レコメンド型チャットボット

目的はシナリオに沿った対応を行い、利用者の好みに合った商品を提案。活用例としては、kik上で提供されているH&Mが代表に挙げられる。

提案までの一連の流れはコーディネートの写真が2つほど表示され、どちらが好きかを数回選ぶ。すると、チャットボットがその人の好みをある程度把握。欲しいカテゴリを選ぶだけで商品提案をしてくれる。
途中で気に入らない商品ばかりが提案されるようになると、その意志を伝えることで最初に戻り、好みの把握から、再度提案が行われる。

レコメンド型チャットボット
↑画像右がコーディネート提案を受けた際の様子。違った提案を受けたいな、と思った際は「Try again」を押す。

一連を体験する中で良いと思ったポイントは、希望に合うと判断された商品だけではなく、コーディネートとして合計4つ商品画像が出てくることだ。
利用者はこういったテイストでアイテムをそろえればいい、という理解も深まり、店舗はクロスセルの提案を行える。

対面のコミュニケーションだと、タイミングによっては押し付けがましくなりそうな内容でも、画像で表示させることでサラッと行えてしまうのは、チャットボットなどのデジタルでのコミュニケーションの得意とするところだろう。

また、提案後はそのアイテムを実際に人が着たイメージも見ることができる。
残念ながら提案されたコーディネート全てのアイテムを着ているわけではないが、特にアパレルでは有益な、画像を活用したコミュニケーションだ。

イケメン
↑こんなイケメンが着たらなんでも似合いそうな気がする

現状はチャットボット上で決済が完了するわけではなく、提案された商品をタップするとECサイトに遷移し、決済を行う。今後はチャットボット上で決済が完了するのだろうか。今後が楽しみなチャットボットだ。

レコメンド型チャットボットは、Eコマースをどのように変えるか

通常のECサイトでは、欲しい商品の最短表示を良しとし、非常に効率的に作られていることが多い。来店者が入力したキーワードや、店舗側でカテゴリ分けされた商品からお目当ての物を探し出すなど、顧客の知識や能動性に任せた販売方法だ。

一方、チャットボットでは、選択肢や会話のやり取りが発生する分、正直ECサイトでお買い物慣れした人にとっては効率的ではない。

しかし、欲しい商品を探すためのキーワードが思いつかない、または、その分野に対してはそんなに知識がなく、必要に迫られて購入する場合や、ECサイトでの購入に不慣れな来店者にとっては、実店舗と同じように希望を伝えることで好みに近い商品を見つけ出せる価値がある。

来店者だけでは探し出せなかった商品を、コミュニケーションを通じて提案してくれるのが、このレコメンド型チャットボットの大きな魅力だ。

この流れは、1〜2年ほど前、アメリカでは「Conversational Commerce(カンバセーショナルコマース)」という、平たく説明すると「デジタルでコミュニケーションを取る中で、商品購入や、目的達成する経済活動」で、新たなお買い物方法として注目を集めている。

ブランド訴求型チャットボット

目的はチャットボットが紹介する商品やブランドへの知識を深めてもらうこと。店舗のファンを創りだす目的で活用されている。

例としては、同じくkikでの「Kalani Hilliker’s bot」が挙げられる。

このチャットボットではアメリカの10代の女性アイドルとチャットできる。日本でいうギャル文字のような、10代が使いそう(この表現を利用すること自体、私が対象外であることを思い知らされる)な単語を使ったシナリオ型チャット。支持していると思われる10代〜20代前半の層が興味のありそうな話題、メイクアップの上達方法を動画で教えてくれる。

Kalani Hilliker’s bot
まずはメイクアップの悩みを選択肢の中から選ぶ。お悩みを解決する形で女性アイドルがコスメのシリーズを紹介し、動画で使い方を教え、クイズで動画のポイントとなる点をおさらいするのが一連の流れ。

現在、YouTubeでもメイクアップ動画はたくさんアップされている。静止画だけではどうしても伝わりづらいニュアンスの部分でも動画でなら伝わることもある。
また、動画のアップ主が視聴者に語りかけることでさらに深くメッセージを伝えることができ、さらにデジタルでの接客において活用の幅が広がっていく効果があると考える。

Kalani Hilliker’s bot2
ブランドや商品の知識を定着、で終わると思ったら実際の店舗で利用できるデジタルクーポンを配布する徹底ぶりで、しっかり商品を手に取ってもらう仕組みができているところにソツなさを感じる。

Kalani Hilliker’s bot3

その分野では憧れの存在、ブランドを代表するような人、または、親近感を感じるキャラクターなどと会話し、伝えたいことを相手に聞いてもらえる環境をチャットボットが提供する流れは、今後増えていくものだと思われる。テレビショッピングのように、生活者に語りかけながら進めることで興味を持つ人は増えていくことだろう。

次回は人工知能(AI)活用型の事例を紹介し、チャットボットでの生活者とのコミュニケーションについて考えていきたい。