日本のライブコマース市場規模は5年後どうなる?海外市場を参考に2027年のポテンシャルを推定

日本における2027年のライブコマース市場規模を予測ライブ配信を行いながら商品をリアルタイムで販売する「ライブコマース(Live Commerce)」。商品を販売する目的はもちろんのこと、顧客との交流や新しいファンを獲得する場としてライブコマースを活用するEC事業者さまも目立ち始めました。日本では黎明期と言われるライブコマースは、現在どの程度の市場規模があり、今後どのように拡大していくのでしょうか。中国や米国のライブコマース市場を参考に、5年後(2027年)の日本におけるライブコマース市場規模を推定します。

この記事は、株式会社いつもさまが運営する「デジタルシェルフ総研」に掲載されているコラム「ライブコマース市場の展望」を転載したものです。見出し、リード、外部サイトのURL表記等はE-Commerce Magazine編集部が編集しています

ライブコマース市場の展望

中国のEC市場では、以前よりライブコマースの人気が高く、現在もその状態が続いています。日本でもライブコマースが一部のEC事業者によって開始されましたが、日本を含む中国以外の諸外国のライブコマース経由でのEC(以降“ライブコマース”と称す)に関する市場規模は、中国と比較するとそれほど大きいサイズとはなっていません。しかしながらコロナ禍において自宅で過ごす時間の増加とともに、全世界的に徐々にライブコマースのニーズが高まっているように思われます。日本でも同様に今後ライブコマースが本格化する可能性が想定されます。そこで本レポートでは海外のライブコマース市場の状況を参考に、日本における同市場規模のポテンシャルを推定することとします。

世界の地域地域・国のライブコマースに対する関心度

はじめに、ライブコマースに関する消費者の関心度に関する統計を紹介します。次のグラフは月に1回以上ECを利用する消費者を対象とした海外のアンケート調査です(調査方法の詳細はグラフ下部の記述を参照)。全世界では11%が“関心がある”と回答しています。地域・国別に見ると、アジア太平洋が17%と最も高く、次いでUAE16%、米国14%となっています。情報リソースに明確な記述はないのですが、アジア太平洋が最も高い理由は中国が含まれているからと推測されます。

【ライブコマースに関する消費者の関心】

ライブコマースに関する消費者の関心

出所:「The Future Shopper 2021」(Censuswide社およびWunderman Thompson社共同)のデータを参照して作成

中国と米国におけるライブコマース市場規模

では具体的な市場規模を見てみましょう。次のグラフは中国におけるライブコマース市場規模の経年推移を表したものです。中国では2021年には日本円で43兆1,243億円と推定されています(19円/中国元で計算)。またEC市場規模全体に占める比率は15.5%にも及びます。元々のEC市場規模が巨大な上、ライブコマース市場の比率も15.5%と他の地域・国より相対的に高いため、43兆円以上の巨大な市場規模を形成しています。2020年の日本の物販系BtoC-EC市場規模が12兆2,333億円ですので、比較するとその巨大さを実感することができるでしょう。また、今後もライブコマース市場規模は増加し続けると予想されています。

【中国におけるライブコマース市場規模およびEC市場に対する比率】

中国におけるライブコマース市場規模およびEC市場に対する比率

出所:ライブコマース市場規模「China’s E-commerce Livestreaming Research Report 2021」(iResearch社)のデータを参照して作成

2021年以降は予想値。為替は19円/中国元で計算。

出所:ライブコマース市場比率 同上

一方米国ですが、2021年で1兆3,970億円と推定されます(127円/USドルで計算)。中国と比較するとその規模は小さく、EC市場規模全体に占める比率も1.4%と低い状況です。しかしながら、以下のグラフの通り今後その規模は徐々に拡大すると見られており、2024年にはEC市場規模に占める比率は3.0%、金額ベースで4兆4,450億円にまで拡大すると予想されています。年々比率が高まる予想ですので、長期的には米国でも数パーセントの後半まで比率が上昇することがあるかもしれません。中国と米国ではEC市場の成り立ちや個人消費に対する考え方が必ずしも同じではないため、両国を単純比較することは難しいですが、いずれにせよ先進国である米国においてもライブコマースが徐々に浸透しているとみることができると思われます。

【米国におけるライブコマース市場規模(単位:億円)およびEC市場に対する比率】

米国におけるライブコマース市場規模およびEC市場に対する比率

出所:ライブコマース市場規模 「Retail TouchPoints」(Coresight Research社)のデータを参照して作成

為替は127円/米ドルで計算。

出所:ライブコマース市場比率 「Statista Digital Market Outlook」(Statista社)のデータを分母として算出。2021年以降は予想値

日本でのライブコマース市場規模の展望

では本レポートの本題である日本でのライブコマース市場規模のポテンシャルを予測してみたいと思います。中国は2021年でライブコマース市場規模の比率が15.5%と高く、消費者の消費行動が日本とは異なりますので、中国をベンチマーク対象にするのは適切ではないでしょう。一方米国は日本と同様に先進国です。EC市場のトレンドも日本は米国に3年程度遅れていると一般的には言われています。したがって米国のライブコマースに関する状況は、この先の日本にとって良い参考になるかもしれません。そこで2024年に想定される米国のライブコマース市場規模比率を、その3年後の2027年における日本のライブコマース市場規模比率と置いてみたいと思います。ただし、日本ではライブコマース市場の形成が始まったばかりと考えられますので、2024年の米国のライブコマース市場規模比率3.0%の半分に相当する1.5%を仮の数値として置いてみましょう。日本の2020年の物販系BtoC-EC市場規模は12兆2,333億円です。今後の拡大ペースをやや控えめに年率7.0%と仮置きし、2027年の同市場規模を算出すると、19兆6,440億円となります。この市場規模に1.5%を乗算すると2,947億円となります。あくまでも机上の計算ではありますが、日本でも最大で3,000億円近い市場規模が見込まれる計算になります。尚、この数値は仮定としての最大理論値である点にご留意ください。実際にはこの数値を下回る可能性が想定されますが、EC市場規模が引き続き拡大基調にあり、諸外国を参考にすればライブコマースへの関心も高まると思われますので、中長期的には日本でも大きなマーケットが形成される可能性が想定されるでしょう。

【日本で想定されるライブコマース市場規模の最大値予想】

日本で想定されるライブコマース市場規模の最大値予想

出所:EC市場規模は経済産業省令和2年度産業経済研究委託事業(電子商取引に関する市場調査)の2020年の物販系BtoC-EC市場規模の数値を基に計算

日本のライブコマースの成功事例

日本におけるライブコマースの成功事例を3つご紹介します。

who’s who Chico

アパレルブランドである「who’s who Chico」のライブ配信は、ライブコマースの成功事例です。

who’s who ChicoではECサイトで新作の予約販売がスタートする前日に、Instagramで商品を詳しく紹介するライブ配信を実施しています。その結果、ある日のライブ配信で紹介したワンピースは「販売初日に95点(¥721,050)もの予約が入った」という成果を上げています。

ライブ配信を行っていなかったときには、予約販売の初日にもっとも予約が入った商品でも46点(¥349,140)でした。そのためライブ配信をすることで、受注率が206%増加する結果となりました。

ライブ配信のほかにもInstagramの「リール」を活用しています。「ストールの巻き方の説明動画」や「複数のアウターを早送りで紹介した動画」などは、紹介したアイテムの売上につながっています。

who’s who Chicoの成功事例は、こちらの記事でご紹介しています。

今こそ試したい、Instagramで顧客と交流する方法!ライブ配信、リールなど最新活用法

「Chut! INTIMATES」

ランジェリーブランドである「Chut! INTIMATES」は、1~2か月に1回の頻度でライブ配信をおこなっています。「ランジェリーの着こなし」をはじめとした、さまざまなテーマで配信しています。配信中の視聴数は平均2000人であり、フォロワーの1割弱が視聴しています。

インスタライブは「ECのコンバージョンに直接的につなげる」といった目的ではなく「ランジェリーの魅力を消費者に伝える手段」として活用しています。

Instagramのほかの機能でも「ブランディングを意識したコンテンツを投稿する」「ストーリーに投稿するコンテンツは少し販促要素を強くする」といった使い分けをしています。投稿するコンテンツや投稿スケジュールは、EC・店舗のセールにあわせて決定しています。

その結果、Instagramの投稿を経由した売り上げが「EC事業全体の5%前後を占める」ライブ配信で紹介した商品を「消費者が実店舗で指名買いする」といった効果が生まれました。

Chut! INTIMATESの成功事例は、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

インスタライブの成功事例!ランジェリーブランド「Chut! INTIMATES」が取り組むライブ配信の舞台裏

BRADELIS NewYork

補整下着ブランドである「BRADELIS NewYork」は、2020年春から「Instagramを使ったライブ配信を月2回行う」「下着のフィッティングサービスをオンラインでも行う」といった取り組みにより、2020年のEC売上高が前年比145%に伸びました。

ライブ配信は月2回のペースで実施しており「下着の選び方」や「正しい着用方法」といった消費者に役立つ方法を中心に配信しています。ライブ配信のコメント機能を活用し、消費者のニーズやよくある悩みをヒアリングします。できる限りその場で回答することで、消費者とコミュニケーションを取る場となります。

ライブ配信を行うことで「1度の配信でECの売り上げが約100万円伸びた」「ライブが実店舗への来店のきっかけになった」といった効果がありました。

BRADELIS NewYorkの成功事例は、こちらの記事で詳しくご紹介しています。

オンライン接客の成功事例!コロナ禍でECを伸ばした「ブラデリス」の実店舗EC連携

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